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IFA業界事情
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IFA業界事情
2003年東京大学法学部卒業。2010年London Business School 金融学修士課程修了。野村資本市場研究所・DIAMアセットマネジメント等を経て、2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業、2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年5月に日本資産運用基盤株式会社を創業。
最先端の情報技術を活用した金融サービスの革新を意味するFinTechの代表例として、資産運用分野におけるロボアドバイザーサービスが注目されるようになって久しいが、その付加価値の本質が何なのかが正確に理解されていないように見受けられる。「AI(人工知能)が運用することによって、これまでヒトに頼っていた運用が自動化され、コスト削減やリターン向上が期待される」というロボアドバイザーサービスの説明が散見されるが、これは全くの誤解である。
まず、投資運用技術の発達は既に少人数のヒトのチームで巨額の資金運用を効率的に行うことを可能としており、投資運用部分でのAI等の活用によるコスト削減効果の余地はそこまで大きくない。
また、リターンの向上についても、既存投資運用技術と比べて、AI等の活用がその投下コストを正当化するほどにリスク調整後リターンを安定的に高めると期待するのは非現実的である。
つまり、ロボアドバイザーの本質とは、投資運用部分におけるコスト削減やリターン向上を狙った革新的取り組みではなく、それ以外の部分での付加価値創出なのである。
この投資運用部分以外で期待されるロボアドバイザーの役割とは、即ち顧客コミュニケーションの効率化や充実など、顧客接点での付加価値提供に他ならない。特に、投資信託など従来型サービスがコモディティ化し、商品そのものに付加価値がほぼなくなったいま、付加価値ポイントは顧客接点に移行しており、その部分での情報技術やAIを活用した新たな付加価値創出に対する期待は大きい。
足もと普及しつつあるロボアドバイザーサービスにおいても、投資運用部分でのAIの活用を謳うものもあるが、実際には単なるマーケティング目的の宣伝に過ぎず、新規性がある付加価値は投資運用ではなく、スマートフォン等を通じた快適な顧客体験(UX)を伴う顧客コミュニケーションである。
商品提案のみをとってみても、金融機関はこれまで、客観的かつ論理的な顧客コミュニケーションができていたとは残念ながら言い難く、一貫性や論理性等が担保されたアルゴリズムに基づくコミュニケーションが可能なロボアドバイザーの付加価値は決して小さくない。
ただ、現在あるロボアドバイザーサービスの多くは、入り口で利用者のリスク許容度等に応じた最適な金融資産分散ポートフォリオを提案するとともに、ポートフォリオマネジメント代行および運用状況の報告等を行うものであるが、既存の資産運用サービスと比較して高水準の残高比例手数料を正当化するほど目新しい付加価値があるとは思えない。
最適なポートフォリオの提案については、既に無料の診断ツール等が多く存在していることに加え、一時点で完了するものであるため、継続的な残高比例報酬の根拠とはなり得ない。また、ポートフォリオマネジメント代行や運用状況の報告等は、投資信託など従来型サービスでも行っていることである。確かに、スマートフォンを通じてそれらを利用できることは便利ではあるが、果たして数十bpsも上乗せされる報酬率に見合うだけの付加価値であろうか。
つまり、既存の「ロボ・ポートフォリオ・アドバイザー」はその話題性や見かけの新規性で高い報酬率が成立しているものの、本質的な付加価値提供を伴うものではなく、ビジネスとして中長期的な継続が可能かは疑問である。
伝統的な金融機関が現在提供できておらず、IFAこそが提供できると期待されている資産運用サービスとは、入り口で商品を提案するのみならず、それぞれの利用者の将来目標を達成するために最適な資産計画をともに策定し、当該計画期間を通して最後まで目標達成に向けたサポートを行うというものである。
このように継続的に利用者それぞれの資産計画をサポートすることは、当然ながら単に商品を販売する以上の専門性が求められるものであり、何よりも一人ひとりに個別のサポートを提供する手間自体も決して小さくない。そこに「ロボ・プランニング・アドバイザー」を活用することが、利用者それぞれの資産計画の丁寧なサポートの効率化につながるのであれば、それは利用者にとってのみならず、金融機関側にとっても有益な付加価値となる。
ロボアドバイザーサービスの普及がIFAの存在を脅かすというまことしやかな将来予想も流布するが、両者は互いに排除しあう関係では決してない。むしろ積極的に活用し、高品質のサービスを効率良く提供することがこれから求められる新たなIFAビジネスモデルなのではないだろうか。