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IFA業界事情

IFAビジネスの可能性と課題

(第5回)
横断的な金融サービス仲介に動く保険代理店

画像:大原 啓一 氏
日本資産運用基盤グループ
代表取締役社長
大原 啓一 氏

2003年東京大学法学部卒業。2010年London Business School 金融学修士課程修了。野村資本市場研究所・DIAMアセットマネジメント等を経て、2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業、2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年5月に日本資産運用基盤株式会社を創業。

金融サービス仲介横断化の流れ

本連載でもこれまで繰り返してきたとおり、一般生活者の資産形成における投資信託等の活用が進まない中、IFA等の金融仲介業者をはじめとする対面接点で付加価値提供を行う事業者への注目が高まっている。これまで、多くの金融機関の従来の付加価値提供のアプローチでは、投資信託等の商品ありきで、それをいかに生活者に売りつけるかに過度に偏っていたのではないか。また、FinTechを活用した顧客接点業務の改善の取り組みも目立つが、単なる商品ではなく、フィナンシャルアドバイザー的なサポートに提供の対象となる付加価値がある、と正しく課題設定すると、非対面接点のみでは難しい。対面接点が改めて注目を浴びている背景には、こうした諸々の問題意識があるように思われる。

一方、金融サービス仲介に係る法制度の横断化に関する議論が当局において進められている。金融商品は金融商品取引法の下で金融商品仲介業者が、保険商品は保険業法の下で保険代理店が、住宅ローン等は銀行法の下で銀行代理業者が、といったかたちで、これまで異なった法令の下でばらばらに規制されていたものを横断的に一本化しようとする試みである。

顧客である一般生活者にとって、自身の資産計画とその実行を相談する金融事業者に、金融商品のみならず、保険商品や住宅ローン等も全てワンストップでサポートを受けられるようになるのは便利であるし、金融事業者にとっても、提供サービス水準の向上や事業機会の拡大という点で歓迎されるべき動きである。

保険代理店の金融商品仲介事業参入の検討

こうしたさまざまな動きを背景に、一部の大手保険代理店において、その来店型店舗の対面接点で投資信託等の資産運用商品の提案・販売を行うべく、金融商品仲介事業への参入を検討する動きが目立つ。これまでも中小規模のIFA事業者が収入を確保するために保険代理業を兼業するといったことは少なからず見られたが、大手の保険代理店が金融商品仲介事業に参入するという逆の動きは特筆すべきものである。
この背景として、保険商品販売の先行きが不透明であるという状況がひとつ挙げられる。一般世帯の保険加入率が約9割に達し、低金利環境の長期化によって、より条件の良い保険契約を開発し、無理なく既契約を置き換えることも困難である一方、最近まで稼ぎ頭であった外貨建て保険や経営者保険に対する当局の目も厳しくなってきており、これまでのように保険商品の販売手数料からの収入を安定的に見込むことが難しくなっている。

もうひとつ挙げられるのが、保険代理店の来店型店舗においては、相談者に対してそのライフプランニングと資産計画の策定を行った上で必要な保険商品の提案を行うというあるべきプロセスが定着しており、その資産計画の実行サポートの一環として資産運用商品の提案も行うというのは自然な展開だ、という点だ。自社がすでに有する来店型店舗やそのスタッフ、顧客基盤、ライフプランニング等のプロセスといった戦略資産を活用しつつ、従来の保険商品とは異なった収益性を持つ投資信託商品等にも取り扱いを拡大するというのは、事業戦略的にも検討に値すると思われる。

金融商品仲介事業に取り組む保険代理店の課題

ただし、いかに事業親和性が高いとはいえ、保険代理店が金融商品仲介事業に参入するのは、それほど簡単ではない。保険商品も大きな意味で金融商品の一種であるとはいえ、そこで求められる態勢やノウハウ等は大きく異なり、専門人材の採用等をはじめとして、しっかりと準備を整える必要がある。

まず、多くの保険代理店が最初に困難を感じるのが、コンプライアンス態勢の整備である。金融商品取引法等の法令や業界団体の諸規則は当然ながら保険代理業のそれらとは異なっており、コンプライアンス等の内部管理態勢の整備や専門人員の採用等、ゼロベースで行わなければならない。複数の証券会社に所属する形で金融商品仲介事業を行う場合、その委託証券会社の選定や証券会社毎に異なる内部管理ルールへの対応等も簡単ではない。
また、既存の顧客への提案プロセス等との親和性が高いとはいえ、基本的に時価が変動しない保険商品と、提案直後から時価が変動し始める金融商品とはその商品性そのものが根本的に大きく異なっている。一人ひとりの顧客と対峙する担当者がどのように商品を説明し、フォローアップするのか等、その研修態勢の充実も念入りに検討すべき重要な課題である。

一筋縄では行かない保険代理店による金融商品仲介事業への参入ではあるが、金融サービスの利用者である一般生活者にとってもワンストップで様々なサポートを得られるといった利便性の向上が期待されることであり、また、金融業界にとっても、顧客接点で適正かつ高水準の付加価値を提供し得る事業者が増加し、健全な競争の活性化にもつながるとも予想され、大いに期待したい。

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