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IFA業界事情

成功するIFAのセルフマネジメント

米田メソッド(第10回)
スイスのプライベートバンキング(PB)に学ぶ資産保全型運用

画像:米田 隆 氏
早稲田大学 商学学術院
ビジネス・ファイナンス研究センター
上級研究員(研究院教授)
米田 隆 氏

1981年早稲田大学法学部卒業後1981年(株)日本興業銀行入行
1991年GLA設立、代表取締役就任、1999年PWM日本証券株式(旧LPL日本証券)会社代表取締役、2007年GLA代表復帰
公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング教育委員会委員長
2017年12月より常勤にて現職就任

預かり残高を増やし、IFAとしての生産性を上げる

今回は、スイスのPB資産保全型運用の特徴を紹介しながら、IFAとして成功する資産運用業務の在り方を読者の皆様と共有します。

資産運用業務で成功するには、預かり資産残高:Asset Under Management(以下、AUM)を上げることが最も有効です。AUMに比例して上昇する収入に対して、顧客のニーズ把握や、コンプライアンス上の要請から、顧客1人当たりに費やすべき最小限の時間=IFAのコストが発生するからです。
AUMを効率的に増やすには、マーケティングの観点から、明確な顧客ターゲットが必要です。運用ステージで見れば、働きながら徐々に運用元本が増加する資産形成層よりも、一括金を持っている資産保全期の顧客層に注目すべきです。

一方、投資可能資金規模という意味では、一般零細個人よりも富裕層、とりわけ、ファミリービジネスの経営者一族に重点を置くべきでしょう。
IFAとして富裕層を取り込むには、資産保全期の富裕層を多く顧客として持つスイスのPB業務に学ぶべき点は多いと考えています。

スイスPB市場の二大特徴

スイスのPB市場は、次の2つの特徴を持っています。

第1に、運用資金の75%超が非居住者によってもたらされていること。その意味で、スイスの金融市場はオフショア金融市場と言えます。

第2に、成功した起業家のお金(New Money)を、高いリスクを取る代わりに高いリターンで運用する米国型PBとは異なり、一族が代々引き継いできた資金(Old Money)を、元本を減らさず確実に運用し、次世代に引き継ぐことを目的とする運用市場であることです。IFAとしてスイスのPBに学ぶべきは、資産保全におけるリスクマネジメント手法です。

スイスPBに学ぶ運用におけるリスクマネジメント手法

スイスのPBが用いる資産保全型運用を見ると、リスクマネジメント(以下、RM)の観点から次の4つの手法で資産を守る仕組みができていることが分かります。

第1に、元本の着実な増加に資する運用商品を客観的に選択すること。これは運用商品選択の際のデューデリジェンス(以下、DD)プロセスです。
近年スイスPB市場では、この役割を購買代理人として徹底させるため、投資商品のオープンプラットフォーム化を進めている大手金融機関が数多く登場しています。またこうした顧客本位のサービスを加速化しようと、PBサービスのバリューチェーンのアンバンドル化が急速に進んでいます。優秀なPBバンカーが顧客本位のサービスを追求するため、スイス金融庁の許可を得てEAM(External Asset Manager:米国のIRAのような投資一任業者)として独立し始めています。こうしたEAMをパートナーにPB業務の拡大を図ろうと、大手金融機関は、こぞってEAMサポート専門部門を設立しています。EAMは顧客のリレーションシップと顧客の商品提案に特化する一方、銀行は調査・取引の決済・事後の報告書作成に特化しています。

RM手法の2点目が、分散投資です。どんなに優秀な専門家が中立的な立場で慎重に投資商品のDDを行っても、DD後に発生するリスクに完全に対応することは不可能です。そこで重要となるのは、分散投資の手法です。
スイスは国内での投資対象が限定されるため、国外からの膨大な運用資金を効率的に運用しようとすれば、国際分散投資が必要となります。こうした歴史的背景を基に長年スイスが培ってきた国際分散投資のノウハウが、結果として今日、世界の富裕層の資金を集めることにつながっているのです。教育水準が高く、語学能力の高いプロフェッショナルが潤沢にいることも、スイスPBによる国際分散投資能力を下支えしてきたと言えましょう。
しかし、リーマン金融危機で国際金融市場の高い連動が露呈し、分散投資手法が限定的にしか機能しないことを経験したことで、運用手法の抜本的な見直しを余儀なくされています。そこで近年注目されているのが、既存のアセットクラスとリスク相関係数の小さい、絶対リターンに寄与する運用手法や、時間分散投資です。

3点目が、適切な運用ストラクチャーの選択です。米国のFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)を契機に、米国のオフショア取引での脱税を支援したとして、スイスの金融機関は米国当局から莫大な課徴金を受けました。その後導入されたOECDの金融口座に関する自動情報交換システムにより、もはやスイスの秘密口座は税務当局に対してはガラス張りとなりました。
この結果、従来以上に顧客の居住国での税制を前提にした、合法的なタックスプランニングに基づく投資提案が求められようになりました。これを受けて、今やスイスは世界でも最も進んだ個人の資産運用に関わる国際税務プランニングの提供を行う金融市場へと変貌を遂げています。

4点目が、後継世代による浪費リスクのコントロールです。その代表例が、信託を活用した資産運用サービスです。
設定者の遺言に基づき、受託者である金融機関が、受益者である後継世代に毎年の運用利益から一定額のみを分配することで、一族のOld Moneyの枯渇を防ぐことができます。
我が国においては、今後高齢化が経済格差の主要因となると予測されています。その意味でも、上述のスイスPBが提供している資産保全型運用手法には、学ぶべき点が多いと考えています。

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