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IFA業界事情
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IFA業界事情
1981年早稲田大学法学部卒業後1981年(株)日本興業銀行入行
1991年GLA設立、代表取締役就任、1999年PWM日本証券株式(旧LPL日本証券)会社代表取締役、2007年GLA代表復帰
公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング教育委員会委員長
2017年12月より常勤にて現職就任
IFAで独立して成功するには、一定期間内に一定金額以上の預かり残高が必要となります。
顧客セグメントとしては、これまでの連載で述べた通り、富裕層顧客の中核であるファミリービジネスのオーナー一族が最も望ましいことは明らかです。しかし、それは激戦市場であり個人のブランドが必ずしも実績により確立されていない草創期には、その市場だけに集中するだけでは顧客が思うようには取れず、日々の資金繰りも厳しくなり、やがて起業のための資金も枯渇してしまいます。
人間誰でも経済的に追い込まれれば、本来やるべきでない方法でも生き残りをかけて稼ごうとするものです。資産運用では短期のコミッション稼ぎの仕事に走ってしまうことになります。せっかく購買代理を目指してIFAとして独立したのにも関わらず、いったんこのように経済的に追い込まれれば、結果として販売代理のような働き方に堕ちてしまいます。
そこで、私がIFAとして注力すべき市場としてお勧めしたいのが、退職金を受け取ったものの、預金だけで運用している定年延長組です。この顧客セグメントから順次、前後の年齢の顧客層に顧客紹介を通じ、市場開拓をすれば、IFAの収益も安定するでしょう。
(1)急増する高齢者の抱える資産運用問題
2060年、総人口に占める65歳以上の人口の割合は4割となります。
この結果、中流階層の崩壊の理由として従来指摘されてきた非正規従業員比率の高まりは、経済的に困窮する高齢者比率の上昇に置き換わると予想されています。
金融庁もこうした、経済的に困窮する高齢者の急増がもたらす社会経済への弊害をよく理解しており、このような状況への警鐘として、高齢化社会と資産運用に関してこの数年の間にいくつかの報告書を提示しています。
こうした報告書における高齢者を巡る資産問題は、次の4点に要約することができます。
①現在60歳の人のおよそ半数が90歳まで生き、25%が95歳まで生き残ることが予想され、資産寿命が平均余命に追いつかなくなっていること
②60歳以上が日本全体の金融資産の65%を保有し、その金融資産に占める預金比率が64%と高く、低金利の中でお金が働いていない状況が継続していること
③60歳以上の人の総資産に占める不動産資産比率が64%と太宗を占めており、人口減少と経済成長率の鈍化で資産としての価値も下落傾向にあり、これを受けてその流動性も低下することが予想されていること。この結果、換金できない大きな不動産資産が人生の資金繰りの重しとなること
④高齢化に伴う認知症発症者の増加により、これら金融資産が運用できず日本経済にリスクキャピタルとして提供されることなく、事実上凍結されるリスクが高まっていること
(2)高齢化に伴う所得の二極化の拡大によって予測される社会的弊害
また、政府はこうした最大の金融資産を持つ高齢者の資産運用を活性化させることで、予想される以下の社会問題への対応を視野に入れているものと推定されます。
①金融資産の枯渇に伴う生活保護者の急増
②生活の困窮から生じる犯罪率の増加
③生活保護者をはじめとする社会保障制度維持のための若年層への社会保険費負担の増加と、それによって引き起こされる労働意欲の低下問題
(3)公助から自助へ
こうした上記の社会変化を受け、巨額の財政赤字を抱える政府は、莫大な金融資産を持つ高齢者の資金運用とその管理を効率化するための市場整備を行うことで、公助から自助の間接支援へ方針を転換していることがうかがわれます。
一連のスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンスコード、フュディシャリー・デューティーそして共通KPIによる金融機関の顧客パフォーマンス開示や、NISAをはじめとする減税措置を伴う資産運用制度の整備などは、こうした自助の間接支援の流れとして見れば一貫した政府の方針として読み取ることができます。
シナリオプランニングにおいて、一般に「インパクトは大きいが予想可能性の高い問題」は、本来対処しやすい問題として分類されます。
こうした問題の主たるものは人口動態により引き起こされる一連の課題で、高齢化に伴う資産枯渇問題はその代表例と言えるでしょう。
しかし、対策としては後述のように総合的なアプローチが求められる上、個々の人々の状況も異なり、高齢者の場合こうした状況も急変する可能性が高いため、一見統計学的にマクロでは簡単に見えてもミクロでは一律の処理が難しいという実行上の課題があります。大きなトレンドが予想されても、いつまでに、どのように対応すべきか、個々の対応が必ずしも合理的かつタイムリーに行われないからです。
高齢社会における資産の枯渇問題は①効果的な資産運用➁長く働くことによる老後資金の引き出し期間短縮③ライフスタイルコストを抑制する生活習慣――の3つの面から総合的に対応することが重要となります。複数の対策を持つことで、高齢時代への変化への対応能力がより高まるからです。
最終回となる次回は、①運用②働き方③ライフコストコントロール――の3つの側面から、私自身も実践している「人生百年時代のファイナンシャルフリーダムの生き方」を具体的に提示します。